

日本の歯科医療は、多くの医療の中でも最も標準化が遅れているのではないかと思うことがあります。たとえば医療での投薬に於いてはかなりガイドラインが細かく出され、癌などにおける実験的な投薬の場合インフォームド・コンセントなどにかんしても細かい規定がなされていると思います。
歯科は確かに名人芸のような部分もありますので、標準化しきれないこともあるかも知れません。しかしできること、するべきではないかと思うこともたくさんあります。
たとえば、前回お話ししたPMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning=衛生士による歯面清掃=プラークバイオフィルムの破壊)は、これによって虫歯と歯周病の予防をする、という方法ですが、この実験に於いても標準化されている必要があったわけであり、また当院でもまずその標準化された方法を教育しています。
もちろんさらにこれよりソフィスィティケートされた方法を開発することは素晴らしいことだとも思いますが、まずは名人クラスではない標準的な衛生士でもできる、標準化されたPMTCをだれもができなければ、本当の予防はできないはずです。
TWITTERなどをみていると、吾こそは名人衛生士というひとがいろいろなことを言っていることもありますが、銀座でお金持ちを相手に一日5人に最高のPMTCをして、私以外はだめなのよ、と、それがそんなに立派なことでしょうか?
すみません。言い過ぎたかも知れません。私はそれよりも、その地域のより多くの人間を、標準的な方法でどれだけ虫歯や歯周病からから守ることができたかのほうがより重要な問題だと思うのです。その標準化された方法で十分な成果が上がることが実験で示されされに30年以上の結果が出ているのです。
当院の衛生士は銀座の衛生士の80%の能力かも知れませんが、向こうが一人ならこちらは5人も6人もいます。公衆衛生に明らかに寄与しているのはこちらです。より多くの人間の健康を守り、育てています。
虫歯や歯周病になるまで放置することを好んで選択する方はいないと思います。
でも、どうやったら予防できるのか、正しい知識を持っている方は少ないです。少ない理由は、正しい情報提供を歯科医師の側が十分にしてこなかったからです。
そこで当院は患者さんに 「正しい情報を提供する」 ことを重要な仕事と位置づけています。
正しい情報とは科学的根拠を持ったことに限定しています。それ以外のことは「そう言う意見もある」という程度に言うようにしています。医療に関して、とくに歯科に関しては俗説のようなもの、あるいは検証が十分なされていないものも多いと言うことは、みなさんうすうす感じているのではないでしょうか。
家庭での歯ブラシは、虫歯の予防に有効か?
PMTC(衛生士によるクリーニング)は本当に有効か?
フッ素は有効か? どうやるのが最も有効か?
これらの問いに対しては、膨大な実験が行われています。そしてそれらに対するシステマティックレビューも出されていますので検索して調べることができます。
一例を挙げると、1978年のAxelsson and Lindheによる、104人の13,14才児童に対する2年間の実験によると、3ヶ月ごとのPMTCによって、それを受けずに家庭での歯ブラシ指導を受けただけの児童に比べて 1/20 しか虫歯ができなかったことが示されました。これは人体実験に近いことですので今日では行われにくい貴重な実験です。
これに類する実験は大量に出されており、この根拠をうけて、スウェーデンでは国民に定期的なPMTCをさせたわけです。その結果は皆様もご存じの通り、40年以上経った今日、80才での歯の欠損が平均3本程度です。対する日本は80才では約半数の人が総入れ歯です。
この実験結果をわかっていながら行わなかった日本は、日本の歯科医師は、いったいどういうわけがあったのでしょう。私にはわかりません。